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8月、ポストに見覚えのない封筒。差出人は税務署ではなく「都税事務所」や「県税事務所」。中を開けると「個人事業税 納税通知書」。所得税も住民税も国保も払ったばかりなのに、まだ何かあるんですか……と、思わず封筒を裏返して確認したくなりますよね(裏には何も書いていません)。
これは請求ミスでも二重取りでもなく、都道府県が個人事業主にかける「個人事業税」という別の税金です。おもしろいのは、同じくらい稼いでいても、かかる人とまったくかからない人がいること。この記事では、誰にかかるのか・いくらになるのか・いつ払うのかを順番に整理します。
結論:2つの関門を両方くぐった人だけが払う税金です
先に要点だけまとめます。
- 個人事業税は都道府県の税金。所得税(国)・住民税(市区町村+都道府県)とは別モノです
- 関門①…法律で決められた70の業種(法定業種)に当てはまること
- 関門②…所得が「事業主控除290万円」を超えること
- 税率は業種によって3%・4%・5%。多くの業種は5%
- 納めるのは原則8月と11月の年2回(東京都の第2期納期限は11月30日)
確定申告さえしていれば、事業税のための申告は原則いりません。8月に通知書が届いたら払う、それだけです。その代わり、金額の中身を知らないままだと「合ってるのか分からないけど払う」ことになります。
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個人事業税とは?「国」ではなく「都道府県」に払う税金
個人事業税は、都道府県内に事務所や事業所を構えて、法定業種の事業を営んでいる個人にかかる地方税です(地方税法72条の2など)。役所も窓口も、所得税とはまったく別。だから通知書の差出人が税務署ではなく都税事務所・県税事務所になっているわけです。
「道路や消防、上下水道みたいな行政サービスは、事業をしている人ほど多く使っていますよね」という考え方(応益負担)が根っこにあります。納得するかどうかはさておき、仕組みとしてはそうなっています。
| 所得税 | 住民税 | 個人事業税 | |
|---|---|---|---|
| 納める先 | 国(税務署) | 市区町村・都道府県 | 都道府県 |
| かかる人 | 所得がある人 | 所得がある人 | 法定業種の個人事業主だけ |
| 税率 | 5〜45%の累進 | おおむね10% | 3%・4%・5% |
| 青色申告特別控除 | 使える | 使える | 使えない |
| 必要経費にできる? | できない | できない | できる |
| 納める時期 | 翌年3月(+予定納税) | 6・8・10・翌1月など | 8月・11月 |
右端の列だけ、見事に他の2つと違いますよね。ここの「ズレ」が、あとで金額の勘違いを生みます。
関門①:あなたの仕事は「70の法定業種」に入っていますか
個人事業税は、事業をしていれば全員にかかる税金ではありません。地方税法が定めた70業種のリストに載っている仕事だけが対象で、リストに書かれていない仕事は、どれだけ稼いでいても原則として課税されません。
| 区分 | 税率 | おもな業種の例 |
|---|---|---|
| 第1種事業(37業種) | 5% | 物品販売業、飲食店業、製造業、請負業、運送業、広告業、出版業、印刷業、写真業、駐車場業、不動産貸付業、旅館業 など |
| 第2種事業(3業種) | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
| 第3種事業(30業種) | 5% | 医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業、弁護士業、税理士業、司法書士業、行政書士業、社会保険労務士業、デザイン業、コンサルタント業、美容業、理容業、クリーニング業、諸芸師匠業 など |
| 第3種事業(一部) | 3% | あんま・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業 |
リストに載っていない代表例=文筆業・プログラマーなど
よく話題になるのが、文筆業(ライター)、翻訳業、漫画家、画家、音楽家、スポーツ選手、プログラマー・システムエンジニアといった仕事です。これらは70業種の一覧に名前がなく、原則として個人事業税の対象外とされています。「フリーランス仲間は払っているのに、自分には通知が来ない」という現象は、だいたいこれが理由です。
ただし、ここは油断できません。判定されるのは「肩書き」ではなく「実際にやっている仕事の中身と契約の形」です。たとえば同じWeb制作でも、ロゴやバナーを作ればデザイン業(第3種)、完成物の納品を約束する契約なら請負業(第1種)と見られることがあります。名刺に「ライター」と書いてあるかどうかは、残念ながら関係ありません。
都道府県税事務所から「お仕事の内容を教えてください」という“おたずね”が届くのは、まさにこの判定のため。怖い手紙ではないので、業務の実態を正直に書いて返せば大丈夫です。迷うときは、確定申告書の「事業の内容」欄に書いた内容を手元に置いて、県税事務所に電話するのがいちばん早いです。
関門②:290万円の「事業主控除」。ここを超えなければ税額ゼロ
法定業種に当てはまっても、もう一つ関門があります。事業主控除=年間290万円です。所得からまるっと290万円を引いてから税率をかけるので、所得が290万円以下なら、業種に関係なく個人事業税は0円になります。
年の途中で開業した場合は月割りになります。東京都の表では、営業1か月なら242,000円、3か月なら725,000円、12か月で2,900,000円です。10月に開業した年は「3か月=72万5千円」が上限、というイメージですね。
計算式は、実はシンプル
ざっくり書くと、こうなります。
(事業所得・不動産所得 + 青色申告特別控除額 - 各種控除 - 事業主控除290万円)× 税率 = 個人事業税
注目してほしいのは「+ 青色申告特別控除額」の部分。東京都主税局も「個人の事業税には青色申告特別控除の適用はありませんので、所得金額に加算します」とはっきり書いています。つまり、所得税では引けた65万円が、事業税では“なかったこと”にされて足し戻されるのです。
ここを知らないと、こんなすれ違いが起きます。
| ケース(第1種・税率5%) | 申告書の事業所得 | 事業税の計算に使う所得 | 個人事業税 |
|---|---|---|---|
| 青色65万円控除あり | 250万円 | 250+65=315万円 | (315-290)×5%=12,500円 |
| 青色65万円控除あり | 280万円 | 280+65=345万円 | (345-290)×5%=27,500円 |
| 青色65万円控除あり | 500万円 | 500+65=565万円 | (565-290)×5%=137,500円 |
| 白色(控除なし) | 250万円 | 250万円 | 0円 |
1行目を見てください。申告書の上では250万円=290万円以下なのに、事業税では12,500円かかる。「290万円以下だから来ないはず」と思っていた人に通知書が届くのは、たいていこのパターンです。青色申告特別控除そのものの仕組みは 青色申告の65万円控除が“75万円”に で詳しく整理しています。
アパート・駐車場・実家の貸し出しは要注意|キーワードは「10」
「自分は会社員だから関係ない」と思った方、少しお待ちください。不動産貸付業と駐車場業も、しっかり第1種事業(5%)です。実家を相続して貸している、親から引き継いだ月極駐車場がある——そんなケースでも、規模によっては個人事業税の対象になります。
| 貸しているもの | 「事業」とみなされる規模の目安 |
|---|---|
| 一戸建の住宅 | 10棟以上 |
| アパート・マンションなど(住宅) | 10室以上 |
| 独立家屋(住宅以外) | 5棟以上 |
| 住宅用の土地 | 契約件数10件以上、または貸付総面積2,000㎡以上 |
| 駐車場(青空・平面) | 10台以上 |
| 立体・機械式など建築物の駐車場/保管責任を負う駐車場 | 1台でも対象 |
| 上記の基準に届かない場合でも | 貸付用建物の総床面積600㎡以上 かつ 年間賃貸料収入1,000万円以上 なら対象 |
意外な落とし穴が最後から2行目。立体駐車場や機械式駐車場は、台数に関係なく1台から「駐車場業」になります。「2台しか貸してないのに」と驚かれることがあるのは、このルールのせいです。
なお共有名義の物件は、持分に関係なく物件全体の貸付状況で判定し、税額だけを持分に応じて計算します。兄弟で実家を共有しているようなケースでは、思ったより早く基準に届くことがあります。
知っておくと得する3つのポイント
① 払った個人事業税は、必要経費になる
国税庁は「事業税は全額必要経費になります」と明記しています(タックスアンサーNo.2210)。所得税・住民税は経費にできませんが、事業税だけは別扱い。払った年の「租税公課」に計上すれば、その分だけ翌年の所得が下がります。納付書を捨てずに保管しておいてください(払った達成感で捨てがちです)。
② 申告は原則いらない。ただし「事業税に関する事項」欄は埋める
所得税の確定申告か住民税の申告をしていれば、個人事業税の申告は不要です。そのデータが都道府県に回り、8月に納税通知書が届きます。ただし、申告書には「事業税に関する事項」欄があり、ここの記入内容が業種判定などに使われます。空欄のままだと確認の連絡が来ることもあるので、埋めておくのが無難です。
例外として、年の途中で事業をやめた場合は、廃業の日から1か月以内に個人事業税の申告が必要です(死亡による廃止は4か月以内)。「もう辞めたから関係ない」とはならないので、ここだけ覚えておいてください。
③ 赤字は3年繰り越せる(青色申告なら)
青色申告をしていて事業が赤字になった年は、翌年以降3年間、その損失を繰り越して所得から引ける仕組みがあります(地方税法72条の49の12第6項)。ただし条件があって、所得税・住民税・事業税のいずれかの申告を、毎年きちんと期限内に出していること。「赤字の年は申告しなくていいや」でスキップすると、繰越しの権利ごと消えます。赤字の年ほど申告する、が鉄則です。
納期は8月と11月。予定納税とは別の話です
納税通知書は8月に届き、第1期=8月31日まで、第2期=11月30日までの2回払い(東京都の場合。納期限が休日なら翌日、通知書の送付が遅れた年は納期がずれます)。窓口・口座振替・コンビニ・クレジットカード納付・スマホ決済アプリなどが使えます。
ちなみに、所得税の予定納税も第2期の納期限は11月30日。同じ日に2種類の納付書が並ぶ年があるので、「同じ税金を二重に請求された」と勘違いしないようご注意を。予定納税のほうは条件を満たせば減額申請ができます → 予定納税の第2期は11月30日まで|「減額申請」と11月16日の期限。
結局いちばん効くのは「業種と所得を正しく申告しておくこと」
ここまで見てきたとおり、個人事業税の金額は確定申告の中身がそのまま材料になります。業種の書き方、専従者給与、赤字の繰越し——どれも申告書と決算書の内容で決まるので、後から「実はこうでした」と言うより、申告の時点で整えておくほうが圧倒的にラクです。
日々の入出金が自動で取り込まれて、決算書まで一本でつながる会計ソフトを使っておくと、この手の「あとで効いてくる記入欄」で慌てずに済みます。ソフトごとの違いは 個人事業主の会計ソフトはどう選ぶ? で比較しています。
まとめ|「業種」と「290万円」を確認すれば、怖い税金ではありません
- 個人事業税は都道府県の税金。法定業種70業種に当てはまる個人事業主だけが対象
- 文筆業・翻訳業・プログラマーなどはリストに無く、原則として対象外。ただし判定は仕事の実態で決まる
- 事業主控除290万円を超えなければ税額は0円(開業初年度は月割)
- 青色申告特別控除は足し戻される。申告書の所得が290万円以下でも課税されることがある
- アパート10室・駐車場10台などで不動産貸付業・駐車場業に。立体/機械式駐車場は1台から
- 納期は原則8月と11月。払った税額は翌年の必要経費になる
まずは今年の確定申告書を引っぱり出して、「事業の内容」欄と事業所得の金額を見てみてください。そこに290万円を足すか引くかの計算をするだけで、来年8月の封筒の中身がだいたい分かります。分かっていれば、封筒を裏返す必要もありません。
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※本記事は2026年9月時点の法令・東京都主税局「個人事業税」および国税庁タックスアンサーNo.2210をもとに作成しています。税率・事業主控除は地方税法で定められていますが、納期や不動産貸付業・駐車場業の認定基準の運用は都道府県によって異なる場合があります。ご自身の業種判定や税額については、お住まいの都道府県税事務所または税理士にご確認ください。


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